「起業家と共に新しい価値をつくる」アクセラレーター担当者が語る、事業創造の想いとは vol.1

2020.02.29

■ゲスト
鈴木 一平(Ippei Suzuki)※写真左
原田産業株式会社Business Co-Creation Team(新規事業開発チーム)General Manager。2008年大学卒業後、同社に入社。クリーンテクノロジーチーム、コンシューマープロダクトチームでの営業及びマネジメントを経験し、2019年度より現チームでの活動をスタート。新規事業領域の立ち上げをミッションとしつつ、「HARADA ACCELERATOR」の運営事務局メンバーとしても従事している。
■インタビュアー
平井 忠道(Tadamichi Hirai)
2008年にABBに入社。自動車塗装ロボットのラボエンジニアとして従事。2016年にドイツ系素材メーカーのソリューション法人営業を経験。新規開拓および既存深耕を軸に全国の顧客に対して幅広く提案型営業を経験。2019年6月に01Boosterに参画。大手企業、スタートアップの事業創造支援に携わる。


平井:「HARADA ACCELERATOR」が2020年春から始まりますが、まずは本プロジェクトのコアメンバーである、鈴木さんのご経歴を教えていただけますか。


鈴木:弊社に入社した当初は、クリーンテクノロジーチームに配属され、半導体、液晶パネル、ハードディスクといったエレクトロニクスパーツの生産現場で使われる、消耗品の販売活動をしていました。一概に消耗品と言っても色々ありますが、とくに「クリーンルーム」と呼ばれる、高く清浄度管理された製造環境で使用されるものですね。


エレクトロニクスパーツの品質には、現場がいかに清浄に保たれるかが重要なポイントになります。例えば非常に厳しく求められる環境だと、「1立方フィート(約30cm立方)の空間内に、0.5μm以上のゴミ1個までしか入っていてはダメ」とか。そんな環境では、作業者自身や着用している様々な装備品、機材、作業用消耗品などから出る目に見えないゴミがクリティカルに影響します。


そういった現場で使ってもらうためには、それらの清浄度を極めて高いレベルにスペックインさせなければなりません。消耗品の種類はいろいろとありますが、皆さんの想像しやすい商品で言うと、例えば作業用ゴム手袋などがあります。ただのゴム手袋じゃないですよ(笑)。 


中国や東南アジアにある手袋工場から調達し、クリーンルーム環境にスペックインさせるための、特別な洗浄工程をかけて仕上げます。中には弊社独自の洗浄レシピを施す場合もあります。そしてそれをコンテナで輸入して、国内へ流通させるんです。


営業活動は、国内の半導体工場、液晶パネル工場などを対象に行っていました。日本全国にありますが、どこに行っても、広い土地がある郊外が多かったですね。稀に高速道路沿いとかもありました。


このチームへ所属している最中に、シンガポール支店で約1年間の営業研修をさせてもらいました。顧客の開拓もやりつつ、アジア圏の消耗品メーカーとの打合せも経験させてもらい、これが次のコンシューマープロダクトチームでも役に立ったと思います。


コンシューマープロダクトチームでは、ユーザーが一般消費者となる商材を扱っていました。クリーンテクノロジーチームとの最も大きな違いは、BtoBかBtoBtoCかという点ですね。自社ブランドの商品もあれば、顧客ブランド品の受託生産(OEM)も行っていました。


自社ブランド品は、冬場や花粉症の時期に使う不織布マスクがメインでした。風邪やインフルエンザ、花粉症が流行する時期は需要が伸びますね。日本のマスク市場は特殊です。海外だと、不健康に見えるのが嫌ということで、あまり付けたがらないんです。


この商品では、弊社はメーカーの立場になりますね。顧客は、問屋企業やドラッグストア、ホームセンターなどの小売り流通企業です。エレクトロニクス業界での仕事とは商慣習も違うし、使われる業界用語も全く違うため、その辺りの対応が最初は大変でした。商談で、たまに知ったかぶりをして後で調べたり、提出した資料への記入方法が、全然違っていて怒られたりしましたね。 


OEMの仕事では、大手日用品メーカーさんにお世話になりました。これもまた仕事の進め方が違っていましたね。自社ブランド品は、自分たちが良いと思う企画と商品をどんどん営業していけますが、OEMだと、顧客がやろうとする商品企画に合わせて活動しないといけません。ODMみたいに、こちらから企画提案してみることもありますが、なかなか採用されるケースはなかったですね。


任せていただいた商材は、ゴム手袋でした。主にマレーシアの手袋工場から買い付けます。他は中国。中国系はまた別の担当者がいました。日本のユーザーは、品質にとても気を配りますよね。商品にゴミがついていないか、穴が開いてないか。この要求とメーカーができることとのギャップを、どう調整するかがとても難しいところでした。


実際には完璧な解決は難しく、メーカーさんの担当者と現場で三者協議して、現実的に行える対策を一つずつやっていくという感じでした。ちょっと強引ですが、これもCo-Creationでしょうか(笑)。


ちなみにこのような「消耗品工場の課題をテクノロジーで解決してみたい」という起業家の方はいますか?アジア圏には数多くの手袋工場があるので、逆に顧客になってもらえるかもしれません。もしいたら一緒に現場を見てほしいですね。


あと小売流通にも、多くのレガシーな部分があります。例えば返品問題など、めちゃくちゃ手間が掛かります。大きなペインがあるので、何かできないかなと。言い始めるとキリがないので、今日はこの辺りでやめておきましょうか。


「Business Co-Creation」のミッションとは


平井:鈴木さんのチームについて教えていただけますか。


鈴木現在所属している部署は、Business Co-Creationチームと言いまして、新規事業開発を専任で担う部署になっています。とくに新規事業の中でもデジタル化やサービス化などのキーワードを中心に、今までにないスタイルのビジネスをつくっていこうというのがミッションです。

 

平井:それが出来たきっかけは何ですか。

 

鈴木向こう4年間のビジネスを考えたときに、「新規事業と呼べるものが、なかなか生まれ難くなっているのではないか?」という会話になりました。


開発は日々取り組んでいるんですけれども、ひと昔前と比べて、顧客やユーザーがより多くの選択肢にアクセスしやすくなっています。競合品もつくられやすくなってきていて、なかなか差別化したポジションを維持しづらい。デジタルを活用した新しいサービスを生み出さなければいけないが、今のビジネスもしっかり守っていかなければなりません。そのリソースや経験の無い中で、新しい何かをつくるのが難しい状況なのだと思います。


そこで、デジタル化やサービス化をキーワードに、専門的に活動する部隊を設けたのがこのチームです。より新領域を意識しての活動ですね。そこで得られる情報の共有もミッションに含まれています。

 

平井「Co-Creation(=共創)」は、部署名としては新鮮な名前だと感じますが、ネーミングの背景を教えていただけますか。

 

鈴木いくつかありますが、一つは企業理念のバリューです。社外に提供するバリューに、「共創・共育」という言葉があります。開発するときも、社外のスタートアップやベンチャーの方々と協業していくことになると考えました。

 

世の中のトレンドを色々な方からお聞きすると、世界的にも事業会社とスタートアップが一緒になって取り組み、新しいものを生み出そうとしているので、我々もそこにチャレンジしてみようと考えたわけです。

   

社内に「スタートアップマインド」が根付いている

 

平井御社は、独自の考え方を持たれている方が多く、その点はスタートアップ企業と共通する点を感じますが、そのような気質を社内に感じることはありますか。


鈴木ありますね。例えば、現場を知るためにインタビューするとか、現場の様子を一緒に見させてもらうとか。そこでどういうことをやっていて、何に苦労しているのか。「ペインは何だろう?」と探して、解決策を考えるという姿勢が常にあります。これは入社してから先輩や上司に教え込まれ、根付いていることです。

 

それがいざスタートアップの方々の行動を観察してみると、基本の姿勢が同じだということに気づきました。だから弊社でも「スタートアップマインド」が、実は根付いているんじゃないかと思います。

 

今回のアクセラレーターでは、スタートアップの皆さんと触れあうことで、それを改めて自分たちが再認識する場になるといいなとも思っています。そしてもう一度新しい世界にチャレンジしていこうというマインドが、醸成できたら面白いと思います。やってみないとどうなるかわからないですけど、そこに共通点はあるなと感じています。


平井今回のアクセラレーターを通して、どのような世界や社会を実現したいと考えていますか。

 

鈴木弊社は昔から人々の困りごとをずっと解決し続けていて、スタートアップの方々と協業するときも、そこは不偏的に変わりません。さらにそこに新しいテクノロジーを使って「こんな解決方法があるんだ」という発見や、新しい発想で取り組むことにより「こんなハッピーなことが待ってるんだ」という新しい価値を提供したいと思っています。


平井:アクセラレーターを実施するに至ったきっかけを教えていただけますか。

  

鈴木各チームが新商品や新ビジネス開発に日々取り組んでいるものの、なかなか明確にこれまでからの変化を打ち出せる新商品や、新ビジネスがなかなか出ていないなという課題がありました。やっとの思いで上市したものの、他社からのキャッチアップも早く、すぐに価格競争になってしまう。


性能や仕様に差を付けようと思っても、それほど調整できるポイントもないし、そもそも過剰スペックだったりする。あ、、これはやはりニッチな業界や市場と言えども、モノづくり、モノの提供だけでは新しい価値提供がしづらくなってきているのでは…と。


今後の開発手法に何か工夫はできないかと考えていて、オープンイノベーションやアクセラレーターという概念に行き当たった、という感じでした。「あ、これは使えるのでは?」と。一方で「他社と協業して何かを作っていくというのは、商社である我々はこれまでやってきてるよね、何が違うの?」「わざわざやる意味あるの?」という疑問にぶつかったんです。


そこで、実際にアクセラレーターやインキュベーターを運営されている企業さんとコンタクトして、ご意見を伺うことも行いました。ゼロワンさんもお越し頂きましたね、ありがとうございました。


お話を伺う中の気づきは、『市場変化は目まぐるしく早く、ニーズも多様化している。そんな中自前の発想だけでは限りがあり、時間もかかってしまい変化に対応しきれない。だからスタートアップのような、新しい技術とアイデアを持つ人と協業する。自前だけではできなかっただろうビジネスアイデアで、早く検証に取り掛かることができるのでは』ということでした。


そしてもう一つ、『世界がデジタル化していく中、ビジネスにデジタルを活用する経験やノウハウも十分とは言えない。だからその経験を増やしていく』ということも、アクセラレーターを行うことの意義としてあるな』と確認できた点ですね。


ほとんどのスタートアップは、デジタルを活用するからこそできる新しいアイデアをお持ちだと思うので。そのような気づきがあって、アクセラレーターの実施を決断したということです。

 

平井:それはボトムアップからですか。

 

鈴木はい、ボトムアップからですね。経営企画会議の下部組織を設け、そこで調査して生まれたアイデアを上層部にあげて決まりました。

 

平井基本的に大きな組織であればあるほど、なかなか社内の声が通りにくい傾向にあると思いますが、御社の場合は責任をもって提案すれば、今回のように割と意見が通りやすい社風なのでしょうか。

 

鈴木通りやすいかどうかは比較がないので何とも言えないんですが…「なぜ必要か」「何を解決しようとしているのか」「どんなリソースが必要か」を説明すれば、まずは土俵に上げてもらえるのではないかと思っています。


いつものやり方でダメだったら、常に新しいものを取り入れようとするマインドの人は、比較的多いですね。新しい情報をキャッチして、それを落とし込んでいくような取り組みにも、比較的耳を傾けてもらえている気はします。

 

各業界のニッチな課題へのアクセスが可能


平井今回のアクセラレータープログラムには、どんな起業家の方々に集まっていただきたいですか。

 

鈴木:とくに限定的なものはありませんが、本質的に「ユーザーの喜び」「課題を解決すること」に真摯に向き合っている、そこに共に進んでいただける方々とぜひご一緒したいです


弊社は、これまで海外のメーカーさんとかと、「プロダクトを使う人のことを考えて、一緒に活動していきましょう」と進めてきました。そこはこれからも変わらないと思います。


平井アクセラレーターの採択企業に対して、どんな支援と価値を提供できると考えていますか。

 

鈴木具体的なところでいうと、国内外の繋がりのある企業、メーカーへのチャネルですね。それから一般的には知られていないような、各業界のニッチな課題へのアクセスが強いので、そことスタートアップの皆さんをお繋ぎすることはできると思います。

 

トレンド領域で、世界的なスタートアップ企業を目指している起業家の方も多いとは思いますが、「この社会のここの課題にアプローチしたい」「局所的な困りごとを解決したい」という起業家の方もいると思うんですよね。そういうところで、上手くマッチングできないかなと思っています。

 

平井:御社の最大のリソースは「人材」だと思いますが、そこも採択企業に提供する価値でしょうか。

 

鈴木はい、そう思います。個性派揃いでバックグラウンドも様々なので、気軽にコミュニケーションが取れる関係性を育んでいけたらと思います。

 

平井社内の方々は、今回の取り組みをどのように捉えていますか。

 

鈴木期待感はあるでしょうね。例えば、先日お会いしたスタートアップの方は、ある社会課題に対して全く別の視点で、課題解決しようとしていました。そういう我々にない視点を持たれている方々が多いので、良いコラボレーションが生まれることを期待しています。

 

「Com-path Semba」が生まれたきっかけとは


平井今回誕生した御社別館にあるコワーキングスペース施設、「Com-path Semba」のコンセプトと経緯を教えていただけますか。

 

鈴木松下幸之助さんの「金魚ばかり考えて、水を軽視したら、金魚、すぐ死んでしまうがな」という観点ですね。まずは社内の人たちに、足を運んでもらいたいと思ってつくりました。リラックスした雰囲気の中でちょっとした会話や、今まであまり交流することのなかった人同士が出会い、何か新しいアイデアが生まれることを期待して、思い切って本社の別館を改装しました。

 

一般的なここの機能としては、色んな人が情報交換しに来たり、イベントを催したりというのを考えているので、そこのコンテンツのプロデュースを「Business Co-creation」がやっていこうと考えています。


平井:「Com-path」の名前の由来について教えていただけますか。


鈴木これには、2つの意味があります。一つは羅針盤です。弊社はずっと造船とか海洋に縁のある事業を行なっているので、相性が良いと考えました。どちらを向いて進もうか、人が集まって色々アイディアを出しながら、進むべき道を考えていくような場所でありたいという想いが1つ。


もう1つはコンパスの語源を紐解いていくと、「Com」と「Pass」に分かれていて、「共に次の一歩を創る」という意味なんですね。なので会社が掲げているバリューに、親和性があると思ってこの名前にしました。

 

平井:Compassion(共感)という言葉にも近似している点がありますね。

 

鈴木: あると思いますね。弊社のもともと持っていた経営理念の中に、社員の共感資産を蓄積していくというのがあります。皆んなで作った、皆んなで喜んだ達成感。そういうのが根底にはあると思いますね。その文脈がここに生きたのかもしれません。

 

平井:スタートアップの方々に共感して、そこから指針が生まれる。そういった場にしていきたいということですね。


鈴木:そうですね。互いに共感しながら、方向性を指し示していければと思います。弊社は歴史のある会社でもあるので、新しいものと古き良きものとを掛け合わせて、世の中に新しい価値を生み出していければと考えています。

 
HARADA ACCELERATORに応募する

※ 今回のインタビューは、原田産業のコワーキングスペース「Com-path Semba」で撮影いたしました。(住所:〒542-0081 大阪府大阪市中央区南船場二丁目10番2号 原田産業株式会社 大阪本社別館内)

 本アクセラレータープログラム期間中、原田産業のコワーキングスペース(場所:大阪/心斎橋)と01Boosterのオフィス(場所:東京/有楽町)を無料で利用することができます。01Boosterのメンター陣とのコミュニケーションが日常的に可能になりますので、積極的にご利用ください。

・・・