毎日、多くの大手企業の新規事業開発部門の方とディスカッションし、多くのスタートアップ(※1)とコミュニケーションし、そして両者のオープンイノベーションをコーディネート(※2)して、事業創造活動をしていますが、大きな間違いがあることを痛感しています。
今国内においての大手企業×スタートアップ企業のオープンイノベーションイベントが数多くスタートしていますが、こ画期的なビジネスに繋がらないことがほとんです。その原因となる間違いを以下の通り整理してみたいと思います。
〔間違い①〕大手企業が主役になろうとする
現在の大手企業×スタートアップによるオープンイノベーションが注目されている理由は、イノベーションのジレンマ(※3)により旧態依然とした既存組織の中では破壊的なイノベーションが構造的に生まれにくく、そして構造的にスタートアップ企業からの方が生まれる確率が圧倒的に高いことが明確だからです。大手企業ではできない(断定)ゆえにイノベーション創造の担い手をスタートアップに担ってもらうのです。そして、そのイノベーションの源泉はスタートアップのファウンダー達の情熱や志に支えられています。大手企業では見向きもしないような(現時点では)スモールマーケットに低コスト構造で参入し、もがき苦しみながらマーケットをこじ開けていくのはその事業に人生を賭してやる情熱があるからです。であればその情熱を持った人や組織を主役に据えなければイノベーションは推進されません。
一方、現在多くの大手企業の新規事業ご担当者とお話ししていると、自社構想のミッシングピースを探す活動をされていたり、スタートアップが自社ために新規事業開発を代行してくれるという空想をお持ちの方が多いです。はっきり言いましょう。スタートアップは大手企業のためにイノベーションを、そしてビジネスを起こすのではありません。社会をよりよい方向に変えるため、世界を変えるため、人類を幸せにするために人生を賭けるのです。大手企業固有の社内政治や既存事業とのカニバライゼーションなどどうでもいいのです。
〔間違い②〕マッチングで事業が生まれる
上記①であれば、いかにスタートアップ企業がイノベーションを起こしやすい環境を創ってあげられるかが肝要なのです。ただし、現在国内で行われているオープンイノベーション活動はほとんどがマッチングイベント的なものが多いです。これもはっきり申し上げると、マッチングだけでは事業は生まれません。特に、事業部とスタートアップを直接合わせると、大手企業サイドから「そんなこと我々はとっくに考えている」「そんな小さいマーケットに興味はない」「それよりも、(自分たちができていない)この部分を(下請け的に)やってくれない」という反応が大抵起こります。結局は大手企業の中では生まれないような革新的なビジネスはマッチングでは生まれないのです。ただし、悩ましい問題は、ベンチャー企業(※4)側も大手企業から下請け仕事をもらうことをGOALにしているところが多いことです。特に財閥を頂点とした系列構造で産業が成立してきた歴史がある日本においては起業家も、スケールを狙い世界を変えるようなスタートアップよりも、大手企業から少しでもお仕事をもらいたいスモールビジネスやベンチャー企業が多いのです。そうなると、今起こっているオープンイノベーションのマッチング事例は大手企業からベンチャー企業への下請け発注モデルはそこそこ生まれるのです。そして、それが「オープンイノベーション」のスタンダードとして根付くことを危惧しています。
大手企業とスタートアップのオープンイノベーションは単なるマッチングではなく、その中心に揺るぎない信念を持った事業をドライブするメンバー(大抵の場合はスタートアップ)がおり、そして参画する社内外プレイヤーが不足するリソースを相互に補完し合い、既存のネットワークバリューから隔離していく緻密なプロセスなのです。お見合いしたら終わりではありません。
〔間違い③〕出資をしない
既存のネットワークバリューの中では既存事業を否定し破壊する事業は生まれません。そして、人生を賭して事業創造しようというある種狂気をもった人材を大手企業で育むことは相当難しいことです。それゆえにスタートアップ企業を主役にしてイノベーションをドライブしていくことになります。そうなると大手企業にとっては「自社へのリターンは何なのか?」という疑問が生まれてきます。長期軸で考えれば、このような社外のスタートアップに対する貢献が自社にイノベーションの種や情報、イノベーター達を惹きつけ、そしてイノベーション・新規事業の偶発性を高めることになります。その戦略をgoogleやApple、GE等のイノベーション先進企業は採られています。将来のイノベーションに対する投資をしているのです。中期軸で考えれば、このオープンイノベーション活動で芽吹いたビジネスやスタートアップを自社に取り込んでいく活動になります。もちろんスタートアップ企業の意思を尊重しながらです。最近は国内のスタートアップでも最終的には大手企業にM&AすることでEXITとすることが普通になりつつあります。これが、いわゆる「スピンイン戦略」になります。そして、そのスピンイン戦略の入り口で必要になるのが、スタートアップへのマイノリティ出資になります。大手企業は出資をすることで当該スタートアップ企業をバリューアップする動機が生まれ、単なる業務の受発注関係ではなくなるのです。スタートアップ企業にとっても、マイノリティでも出資があれば大手企業は単なる発注してくれる先ではなく、精神的には仲間になるのです。 ただし、多くの国内大手企業にとってスタートアップ企業への出資、特にマイノリティ出資は社内承認ハードルが高いことも事実です。ゆえに多くの場合は出資の取り組みにならず、事業上の連携がGOALであったりします。事業連携できればまだしも、単に表彰したり、発表会イベントで終わることが少なくありません。ですので、ベンチャー企業のへの出資の機動性を高めていくことも必要になります。最近のCVC組成が多くのなっているのも、その流れなのかと思います。
(※1)(※4)スタートアップとベンチャー企業を意図的に使い分けています。
(※2)01Boosterはコーディネーターではなく、事業創造をハンズオンで主体的に推進する会社ですので、本来コーディネーターではありません。
(※3)イノベーションのジレンマ:ハーバード・ビジネス・スクール教授のクレイトン・クリステンセンが、1997年に提唱。大手企業がスタートアップの前にイノベーション力を失う理由を説明した企業経営の理論。