01Boosterは日本を事業創造できる国にして世界を変えようと思っています。そのためには日本に埋もれるアントレプレナーシップを呼び覚まし、活躍できる環境を創らなくてはなりません。独立した起業家のみならず、企業内にいる社員の持つアントレプレナーシップを上手く引き出すことも必要です。その仕掛けの1つが『コーポレートアクセラレーター(以下「CAP」という)』です。とはいえ、このプログラムは主催企業の考えひとつでまったく違うアウトプットになります。01Boosterでは昨年度1年間で6バッチのCAPを運営し、また、プログラムに参加する起業家たちとコミュニケーションしてまいりました。ここで、参加される起業家にとって、有効なCAPを選択するポイントを整理してお伝えしたいと思います。
【1】出資があるのか?
出資を伴なわないCAPは結構あります。事業上のパートナーを探すことを主目的にするもの(以下【2】ご参照)、オープンイノベーション活動をやること自体が広報活動として目的になるもの(以下【3】ご参照)等様々です。ポイントは、出資がなければ、イノベーションの担い手である社外のベンチャー企業『の』事業を成長させる動機がなくなり、社外のベンチャー企業を『活用して自社の』事業を成功させることが主目的化してしまいます。主催企業は出資をすることではじめてベンチャー企業の成長を通じて、自社の中長期的な戦略を描くことができます。
【2】大手企業の下請け探しではないのか?
上記に関連しますが、プログラムを通じて事業パートナー企業を募集するというものがあります。これは主催企業が構想する戦略のミッシングピースを埋める目的があります。これでは企業の本業を超えるような事業は産まれませんし、従来の下請け企業探しとほとんど変わらなくなります。ただし、日本はもともと大手企業を頂点とした系列ピラミッド構造なので、下請けを望むベンチャー企業が相当数いるのも事実です。それであればアクセラレータープログラムではなく、ビジネスマッチングの機会を作ればいいということになります。アクセラレータープログラムは、主催にする大手企業に営業する、売り込むのではなくて、世界を変えるような事業を大手企業のリソースを活用して達成しようとする世界観が望まれます。
【3】企業の広報活動なのか?
まだまだベンチャー企業とのオープンイノベーションは始まったばかりで各社が試行錯誤しながら努力されているフェーズであると思います。本来オープンイノベーションは事業創造に繋がることが求められますが、それは不確実性が高く、実行への胆力と覚悟が必要となります。事業開発のフェーズまで行かずにコンテストして表彰して終わりや、マッチングだけで終わる取り組みもあります。ゆえに事業創造に繋がらない打ち上げ花火、広報活動止まりになっているものも多いです。参加するベンチャー企業は自分の事業を成長、成功させるために参加する訳であり、企業の広報のためではありません。
【4】起業家のカウンターパートのプログラム運営者が起業したことがあるのか?
主にベンチャー企業とのコミュニケーションの窓口になるプログラム運営者は、起業家(起業経験がある)であることが求められます。これは当社が加盟するGlobal Accelerator Network(以下「GAN」という)のアクセラレーターのクライテリアでも指摘されていますし、当社は運営してきたアクセラレータープログラムを通じて痛感しています。ずばり、起業家の考え、気持ちは起業の経験がなければ本当のところは分かりません。イノベーションを担い手であるベンチャー企業の視点が薄れ、知らず知らずのうちに大手企業の事情でプログラムが進んでいきます。弊社では運営自体を内製化することを否定的ではありませんが、USのように雇用の流動化があるエリアでは直近キャピタリストやスタートアップをやっていた方が入社していることなど普通なのでよいのですが、雇用流動性の低い日本においてはなかなか起業経験がある運営メンバーが社内にいないのが現実だと思います。
【5】メンターリストが超有名人ばかり、本当にメンタリングしてくれるのか?
事業を大きく推進するためには良質な先輩起業家やその領域の専門家からメンタリングを受けることが効果的です。面倒見よく、ベンチャー企業に寄り添って叱咤激励していただく必要があります。ときには厳しいことも言わなけれないけませんので、良好な信頼関係を築く必要があります。アクセラレータープログラムで高名なメンター陣がリストアップされているケースがありますが、本当にメンタリングを受けることができるのか、さらには真剣に向き合っていただけるのか、を見極めなければいけません。ベンチャー企業とメンターは相互の関係ですので、必ずしもメディア上で有名であることが必要ではなく、自分にあったメンターを見つける必要があります。
【6】マッチングのみ、起業家任せで、適切なカタリスト体制ができているのか?
ベンチャー企業と大手企業はマッチングするだけでは融合しにくく、事業は効果的に創造できません。適切な触媒が必要となります。マッチングのみであったり、選抜されたベンチャー企業に「事業を成長させろ」と発破をかけるだけでは、ベンチャー企業のパフォーマンスが引き出せません。プログラムとして、適切なカタリストを配置し、必要なリソース、メンタリングを適時適切に提供し、で事業の成長を伴走できる体制を準備する必要があります。
【7】企業内社員の研修の機会になっていないか?
ズバリ言うとこのコーポレートアクセラレータープログラムを通じて、主催企業の社員が非常に成長します。事業創造の実戦の場をを目の当たりにできる機会というのは業務上ではなかなか手に入りませんし、もちろん座学でも学べません。ゆえに多くの場合、ベンチャー企業との事業共創活動を通じて、若手社員を中心に非常に刺激を受けることになります。ただし、社員研修の効果は(必然的ではありますが)副産物を超えてはいけません。あくまでもベンチャー企業の事業の成長、成功を主目的にすることを忘れてはいけません。
【8】オープンなのか?
アクセラレータープログラムはできるだけオープンな活動にすることが理想です。マーケットに向き合い事業に必要な最適リソースを探す場合には、会社の中、小さなコミュニティの中だけで見つけるよりオープンな方がいいのは自明の理です。活動自体をオープンにすることで、資源の調達可能性を高めることもできますし、応援者や顧客も増やせることになります。上記【2】の大手企業の下請け探し的な活動になるとどうしてもクローズドな活動になるので注意が必要です。また、ベンチャー企業選抜の審査プロセスで社外の審査員に参加していただくと、自社だけでは発想できないようなビジネスも取り込むことができるようになります。
【9】大手企業の事情で物事が進み、しがらみに巻き込まれないか?
ここもよくあることなのですが、ベンチャー企業の事業を成長、成功させることに集中できない場合があります。主催企業側の事情やしがらみがあるからです。既存の事業部門に直接接点を持つと少しでも競合するるところには否定、批判される可能性もありますし、競合しなくても、どうしても「自分たちでもできるはずだ」という意識が芽生え、非協力的になりやすい傾向にあります。
ここまで書いて、上記の点をすべて考慮したコーポレートアクセラレータープログラムなんてないよ、ということかもしれませんが、(まだまだ道半ばですが、)01Boosterはそれらの課題をひとつひとつクリアしていき、事業創造を最優先し、Entrepreneur Firstなアクセラレータープログラムの運営を目指しています。主催企業にとっても、ベンチャー企業にとっても、有意義なCAPを構築してまいります。