「料理は誰もが使える魔法である」クックパッド住氏が語る、食に秘められた力

2017.10.25


■ゲスト

住 朋享(Tomomichi Sumi)

クックパッド株式会社 国内事業開発部。人々の様々な食の課題を新しいテクノロジや新規事業によって解決し「誰もが料理を楽しんで幸せになる未来」を創出するため、クックパッドアクセラレータの立上げ、社内新規事業推進などオープンイノベーション推進を行っている。 前職のニフティではスマートフォンアプリのプロデュース、2014年にIoT/ヘルスケアをテーマにシリコンバレー駐在などを経て、2015年クックパッドに入社。 その他、東京都が運営するインキュベーションスペースASAC及び日本土地建物が運営するSENQにてベンチャーメンタリングを担当。ASAC第三期ベストコミットメントメンター賞受賞。


■インタビュアー

辻 孝次(Koji Tsuji)

IT代理店にてNTT、KDDIの企画業務、Yahoo!ショッピング出店舗へのマーケティング業務。住まい・結婚などライフスタイル関連の新規事業企画、テレビ局・飲料メーカー・ゲームなどのPR・コンテンツ企画開発、ネットコンサルティングに携わる。2011年に独立し、新規事業立上げ支援、プロダクトのUIUX設計、エンジニア育成アカデミー運営、企業の人材育成。2012年に孫泰蔵氏の第2期 SeedAccelerationProgram MOVIDA Scholarship に選出、女性向けショッピングSNS事業創造。オールアバウトにて新規事業立上げ、プロデュースに従事。2017年に01booster参画。


辻孝次(以下 辻):このインタビューでは、クックパッドさんが今後どのような世界を実現しようとしているのか。また、一緒に取り組ませていただいているクックパッドアクセラレータを通じて、どのような企業さんとコラボしていきたいのかなどをお聞きできればと思います。どうぞよろしくお願いします。

住朋享氏(以下 住):よろしくお願いします。

:まず、今回クックパッドアクセラレータを始めるに至った、きっかけを教えていただけますか。

:きっかけとしては、クックパッドは料理レシピ投稿・検索サービスを運営しており、主婦の方々を中心に使っていただいていますが、今後AIやIoTなどの技術が発達したり、それによりユーザの生活が変わっていくと、クックパッドのサービス内容が変わってくると考えているのが、背景にあります。

:人々のライフスタイルに変化が訪れている中で、料理する状況にも変化が起きている、起きようとしているのですね。

:そうですね。インターネット普及以前、レシピは本のメディアがあって、その本のメディアから、Webにユーザの意思決定するものが変わっていく中で、クックパッドというサービスが出来上がってきました。今後AIやIoTに変わっていくと、クックパッドのあり方が変わるんじゃないかと思っています。

その中で、クックパッドはどこを目指していくのかというときに、料理は大きな可能性がある。料理は人の生活の根幹に紐付いているので、テクノロジーだけではなく、例えば健康や食料生産など、色んな課題に関わっています。

そういう課題を解決できるような会社にどうなっていくのか。クックパッドは今のレシピ事業に関わる人が多いんですけど、色んな課題をもっともっと大切にしていこうと思うと、ベンチャーと一緒に課題を解決することは必要だと思っているので、それが今回クックパッドアクセラレータをやろうと思ったきっかけですね。



:その中で、今回どんなベンチャーの方々に集まってほしいとお考えですか。

:色んなタイプのベンチャーがいると思いますが、例えば強烈な原体験があり、この課題を絶対解決したいと思われている方などでしょうか。基本的には、純粋に人の生活をもっと良くしたい。生産者の課題を解決したい。そんな方に応募してもらいたいと思っています。

:先日、住さんがイベントで話されていた「Magerios」というフレーズが印象に残っています。料理を作ることは魔法をかけることである。このお話が、料理の可能性をすごく表現している言葉だなと感じました。

:そうですね、その上でこれからの地球を作るというすごく壮大なテーマで話しましたね笑。


料理は人と人を繋ぐ力がある

:クックパッドで昔からレシピを投稿されている人は、もしかしたらこういった料理の価値観を持たれているかもしれませんね。あえて運営側が発していた訳ではないと思いますが、食の素晴らしさを感じているユーザの方々と共に抱き続けていた料理に対しての想い。それを言語化した一言のように感じました。

:哲学的かもしれませんが、「料理って一体何なんだろう」という話だと思います。語源として、聖職者と料理人と料理と魔法って同じ語源の言葉なんです。いつも話していることは、畑で取れた美味しい食材や狩猟したお肉を、そのまま食べるより、調理したほうが人はより健康で幸せになるということ。

あと元々料理は、みんなで火を囲んで食べるんですよね。従って、人のコミュニケーションと料理は、昔から密接な関係があったんです。誰かのために作ってあげるとか、みんなで一緒に作って一緒に囲んで食べるとか、ちょっと気になっている人に料理を作ってもらうとときめくとか笑。そういう人と人をつなぐ役割。

あとは、一緒に囲んでご飯食べるとすごく仲良くなるというのは、人類の歴史上でも起こり続けてきたことなので、それが料理の持っている本質的な力だと思います。

料理は、ただ作って栄養摂取するためのものではなく、元気になったり、人と仲良くなるような素晴らしいこと。誰でも使える魔法みたいなことが料理です。といつも話しています。



:それは、クックパッドの社内でもかなり浸透しているのですか。

:いえ、まだ十分にしてないと思います笑。

:なんと笑。とても大きな価値ですよね。料理は、業界別の1つの領域としてよくマッピングされますが、今のお話だともっと根源の、人として本質的な価値領域であると。

:そうですね。何をやるにしても、人は食べたり飲んだりします。そういう生きていくために絶対必要なこと、本質的な欲求と絡んでいるので、社会に必要なコミュニティにも繋がり育むことができます。それが料理を作ることで行える魔法だと思います。

:人と人が繋がるために、昔から存在しているもので、その他にも色々な役割を果たしている。自分自身もその原経験があるのですごくわかります。料理は、変幻自在に価値を与えますね。

:そうなんですよ。その価値観は、レシピが中心事業のクックパッドとして浸透させていきたいですね。レシピサービスを普段メインで使ってくださっている主婦の方は、基本的に時短や簡単さを求めているので、今まではそういう便利なサービスを増やしてきました。

しかし、今回改めて「クックパッドってそもそもなんだっけ?」と立ち返り、合宿などでディスカッションを終えた時に、「やっぱり料理はそういうものだよね」と気づきました。

日本のあちこちでいわゆる都市型の生活とか価値観が多様化し、共働きが増えていく中で、きっと多くの人にとっては料理が作業になってしまっていると感じました。

:世の中その傾向はありますよね。いかに素早く、手間を減らして簡単に。効率が目的になってしまっている人は、以前より増えている。一方、少数派ですが手間をかける人はかけている。この二極化の溝が深くなっている気がします。

:忙しい人が料理しようと思ったら、なるべく時間をかけず、簡単に作りたいという欲求は当然出てくる。しかし「それを提供するツールが、クックパッドでいいんでしたっけ?」という話があって、料理はせっかく素晴らしい色んな効果がある、誰でもできる魔法のようなものなのに。その価値を伝えず、作業を推薦するようなことをクックパッドはしてしまっているのではないかと。

だから、今のままではいけないということで、課題マップを作りました。課題マップの真ん中にあるようななるべく料理を簡単に作りたいよね、というニーズだけではなく、マップのもっと外側にあるようなそもそもの料理の良さ。人々が喜ぶような価値を、料理を通して解決出来るはずの課題解決。それをクックパッドが作り出していかないと、料理で世界を変えるところまでいかないんじゃないかと考えています。



でも「料理は素晴らしいよ」と言ってるだけでは、何も起こらないので、クックパッドがこれらを先導してやらなければいけないと思っています。

今後AIやIoTで、色んなものが時代の流れによって変わっていくと思います。そういう時に「ただ時短で料理してください」ではなく、「料理は楽しいよね」という価値を創造し、伝えていけるサービスを色々生み出さなければいけないと考えています。

そう考えた時、僕らだけではおそらく無理なので、同じような想いを持っている人たちと共に築いていけたらと思っています。僕らと同じ想いを持っている、色んなドメインの方々。例えば産直でもいいし、食育でもいいし、ヘルスケアでもいいし、AIやIoTなどのTech領域でもいいですね。

いずれも起業家の方々が信じている価値観、解決したいと考えている領域で、僕らが一緒になれるところがあれば、一緒に仲間となって世界を変えていきたいと思っています。それが今回のクックパッドアクセラレータです。


ミールシェアの可能性

:クックパッドがローンチした頃をすごく覚えているんですけど、本来お金を払って書いてもらうような人々の独自レシピを、自発的に集めることはできるのか?と一部の人たちに言われていましたよね。確かにレシピを書くのもそうですし、感覚的にオリジナルメニューを作っている主婦の方が多い中、それを言語化するだけでも大変なことでした。

そんな状況の中、ユーザが残したくなるような仕組みを作り、ユーザの知識を集積しながら、料理好きの人たちが自由に表現できるプラットフォームを創造された、そのインパクトはすごく大きかったですよね。

そこから、月間約6,000万人がクックパッドを利用するまでになりました。今後は、今まで築かれたファンと一緒に、新しいファンを増やしながら、次のステージに進まれていくという変革フェーズでしょうか。

:そうですね。ミールシェアは結構それに近いことだと思っていて、料理は孤独なんですよね。キッチンで自分の身近な人たちのために、日々作っていると刺激がなくなってしまったり、世の中に自分の得意な料理を出す機会は中々ないのが実情です。

今までクックパッドがしてきたことは、承認欲求という言い方は陳腐かもしれませんが、ユーザの「誰かの役に立ちたい」「役に立っているという実感を得たい」などの欲求を満たすことなんですよね。だからクックパッドに投稿すればするほど、すごく褒めてもらえるような仕組みを作っています。

:誰かの役に立っているのが、視覚でわかるように設計されていますよね。

:そうですね。視覚として、体験してわかるようになっています。ですが、クックパッドの中心的な価値は、簡単・時短レシピを今日の晩御飯にしたいみたいなのが現状です。でも実は郷土料理、ベジタリアン、ビーガン、ダイエット、介護食などのレシピも結構投稿されています。

ただ、現在のクックパッドのコアな価値観が、簡単や時短にフォーカスしているので、先ほどのようなレシピは、中々注目されない。そういった機会が少ない状況になっています。

:そうなると、郷土料理のような大切なレシピがあまり伝わらず、目立たない。残す人のモチベーションも低くなる可能性がありますね。

:そうかもしれません。クックパッドの人気順レシピ検索のような簡単や時短などの効率を重視した体験だけではなく、郷土料理のような領域で投稿してくださっている方々やそれを探したい方々にも使いやすく、楽しんでいただけるような新しい体験やサービスを創っていければと思います。そうすると、クックパッドのレシピプラットフォーム内でも、その領域が注目されていき、投稿する人や使う人も増えていくでしょう。今後やらなければいけない課題で、料理の価値を伝えるために必要なことだと考えています。

あと先ほどのミールシェアも。料理というと基本的に調理することを指すと思うんですけど、クックパッドのコミュニティでは今までレシピ(=作り方)のやり取りだけだったんですよね。それが、実際に自分が作った料理を人に食べてもらうと、すごく喜ばれることがあると思っています。実際に食べるまでになると人間関係もできるし、街のコミュニティも形成されるし、レシピ以上に色々なことが起きるんじゃないかと思います。

:レシピを探すサービスではなく、先ほどの魔法をかけるところまで踏み込んでいくイメージですね。

:そうですね。例えばミールシェアしましょうと考えたときに、良い体験って一体なんだろうと話しています。実際に渋谷区で実験した時に、初めはみんな、人の作った料理は食べたくないとか言うんですよね。でも近所に住んでいたり、隣の町に住んでいたり、と共通点がわかってくると、急に仲良くなっていくんですよ。

美味しいと言いながら食べて、そのあとまた食べに行こう、飲みに行こうということが普通に起こる、みんなが仲良くなることがわかりました。

こちらは1/2記事目になります。

人間の関係性は、料理と密接に関係している 2/2記事

クックパッドアクセラレータ

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